経緯とコンセプト
400年の歴史を誇る新潟県小千谷市平成にある浄土真宗本願寺派の極楽寺。震災を経て対外的な様々な新しい試みを実施しています。今回はお寺の在り方を模索していく中で、本質に立ち返り法事に着目したことで、「見える法話」というアイデアが生まれました。
極楽浄土ARは、檀家と寺のつながりを強化させる新しい法話のあり方への挑戦です。
普段は立ち入らない本堂の内陣の阿弥陀如来像や彫刻に対し法話の中で極楽浄土の哲学をAR技術で可視化し、伝えることで「見える法話」として実現します。
第23回文化庁メディア芸術祭
エンターテインメント部門
審査委員会推薦作品に選出されました。
◎文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門
https://j-mediaarts.jp/award/entertainment/
「見える法話」の特別公開を実施します。
一般向け
令和元年6月9日(日)13:30-17:00 (予約不要)
メディア向け
令和元年6月12日 (水)10:00-17:00 (事前予約制)
お一人様、約15分ほどの体験時間を要します。お寺探しをしている方はもちろんのこと、仏教への興味がある、新潟観光の寄り道でなど、この機会にぜひお気軽にいらっしゃっていただければ本望です。
400年の歴史を誇る新潟県小千谷市平成にある浄土真宗本願寺派の極楽寺。震災を経て対外的な様々な新しい試みを実施しています。今回はお寺の在り方を模索していく中で、本質に立ち返り法事に着目したことで、「見える法話」というアイデアが生まれました。
観光客が訪れるお寺ではクリエイティブによる施策が一般的になってきてる一方で、地域のお寺に関しては、デザインによって与えられるべき本来の力が生かされてないことが現状です。地域の寺だからこそできること、その可能性を日本の地域のお寺や世界へ発信して行きます。
普段は近づいたり触れたりすることのない阿弥陀如来や彫刻などのモチーフのストーリーをAR技術で可視化することで、法話で語られる世界の理解をより深めることができます。デジタルを感じさせない仏具としてのケースをデザインすることで、住職との自然な会話につながる体験へと昇華されました。
タブレットを収納したケースはオンリーワンのオリジナルです。特別な装飾を施すことなく、シンプルなものとしてデザインすることでARと現実を意識せずにつなぐ開口部というあり方を目指しました。
門徒の世代が時代の流れとともに上がってきているその一方で若い世代も増えてきています。強いしきたりや歴史を守ることに頑なになるだけではなく「温故知新」という言葉の中にある常に新しいアイデアや豊かな感性が、これからの仏教を照らしていくのではないでしょうか。
麻田弘潤
新潟県小千谷市 極楽寺住職・消しゴムはんこ作家。中越地震の復興イベント「極楽パンチ」を毎年開催。今まで寺に関心を持たなかった世代から多く支持を受けている。2012年には消しゴムはんこ作家津久井智子と消しゴムはんこと法話を融合させたユニット「諸行無常ズ」を結成し、全国各地の寺院でワークショップを開催中。また社会問題にも関心を持ち、柏崎刈羽原発運転差止訴訟の原告共同代表を務める他、市内の障がい児の仕事体験の受け入れなども行なっている。2018年11月「気になる仏教語辞典(誠文堂新光社)」出版。https://gokurakuji.info
菊地あかね
宮城県仙台市出身。18歳でブラックカルチャーの探求からNYへ単身留学したのち日本の伝統美に魅せられデザイナーの傍ら芸者に弟子入り。以来お座敷での作法など様々な稽古を続けながら広告や空間・プロダクトを中心に伝統美を正しく新しく伝えるべく、国内外で活動。SXSWでIKEBANA VR EXPERIENCEをディレクションするなど文化の新しい形を発信し続けている。2016年、デイリーフレッシュより独立。2019年、相手の声を聴き、世の中を利くというテーマのもと、新たにデザインファームを設立。 http://www.akanek.jp
谷村紀明
1988年、京都生まれ。墨絵アーティストとして、妖怪画を中心に国内外で活動中。広告、デジタル、映像、ファッション、CDジャケットデザイン、ブランディングなどを手がける。アートディレクター/イラストレーターとして参加した「石けんで洗って学べる絵本」がグッドデザイン賞や国外の広告賞を数多く受賞。http://sumoguri.jp
大村卓
プロダクトデザイナー。おもに生活雑貨、文具など身の回りのもののデザイン開発、コンサルティングを行う。企業などに向けてデザインを提供するかたわらオリジナル製品開発も手がける。その一方で製品化には至らないようなアイデアの断片をしばしばTwitterで発信。
@trialanderror50 https://www.oodesign.jp/
ビービーメディア
長年にわたり、国内の有力企業のブランドコンテンツ制作に携わり、カンヌ国際広告祭、ロンドン国際広告賞、消費者のためになった広告コンクールなどで受賞し実績を重ねてきた制作プロダクション。「映像」「インタラクティブ」「テクノロジー」を一体化させ、感情を通して人と人とが深くつながっていく、「つながり」がうまれるクリエイティブ活動を行う。
御安置している阿弥陀如来像にかざすと、光り輝き向かってきます。その救いの光は空間を超え、あらゆる命に届き平等に極楽浄土に救うと言われています。
浄土真宗の宗祖、親鸞聖人の掛け軸にかざすと、聖人が歩き出し「行道」という礼拝法で念仏を称えます。「行道」はインドから伝わり、尊い存在の周りをお参りする礼拝法。その後ろにはインドの僧侶・女性・子どもなど、様々な立場の人々も一緒に手を合わせます。親鸞聖人は皆立場を超え平等であると多様性を認めています。
鳥の彫刻にかざすと、極楽浄土の鳥たちが飛び交います。
そのなかに頭が二つある共命鳥という鳥がいます。この鳥はあらゆる命がつながり、相互関係の中で存在することを教えてくれます。
天蓋に描かれた飛天にかざすと、飛天が花びらを散らし楽器を鳴らします。これは仏様を礼賛している姿で、法要の際に僧侶が読経したり雅楽を演奏したり散華することも同じように仏様を礼賛しているのです。
飛天が飛び交う中、生まれたばかりのお釈迦様が現れ、「天上天下唯我独尊」と宣言します。「いのちはただ尊く、誰とも比べることはない」という意味をもちます。仏教は誰かと比べて尊い・劣るという比較で人を評価せず、そのままのいのちこそが尊いと説いています。
お供えされた仏花をタップすると床面に色とりどりの極楽浄土の蓮が静かに花ひらきます。
極楽浄土の蓮は、どの色が特別に良いわけではなく、それぞれの色のままに輝いています。これは私たち人間のいのちをあらわし、差別や劣等感は必要ないということや、自分は優れているという思い上がりの心の戒めになっています。
内陣の外にかざすと大正時代の小千谷農村部を描いた屏風絵が現れ、雪が美しく舞います。
鎌倉以前の仏教は貴族に向けたもので、殺生を生業とする者は救われないとされました。しかし、親鸞聖人はそのような人々こそ尊いと目を向けたのでした。
龍の彫刻にかざすと、龍が雨風や妖怪を吹き飛ばします。
龍は仏教を守る存在と言われています。
ここから龍が一体なぜ守るのかという話に展開していきます。
地方の一寺院が「法事のリデザイン」に取り組むことで、地域の寺への起爆剤として過疎化や寺離れ問題に対するインナーの意識改善を狙います。
多くの人にとって法事は亡き人を偲ぶ場。一方で本質的な意味がぼんやりしたまま「やらなければならないこと」でもありました。ARを導入したことで亡き人が往かれた世界の具体的なイメージが出来るようになり、「自分の生き方を見つめる」という次の段階に入りやすくなりました。
タブレットを通したAR映像の情報が法話と同時に伝えられることで、伝達情報の質が格段に上がり、より鮮明に記憶に残るものとして、私たちのアイデアにより変化をもたらせました。
今までは家の主人を中心に法事は営まれ、寺側も主人を中心にコミュニケーションを取っていました。しかし、ARを導入したことでデジタル機器の操作に慣れた若い世代がARを持ち、ご年配が一緒に見るという構図が生まれました。お子さんはゲーム感覚で遊ぶようになり、その生き生きとしている様子をご年配が嬉しそうに眺めるという姿もあり、中心点が無くなり「みんなが参加できる法事」に。若い世代から仏教や極楽寺への興味を持ってもらうよう促します。
撮影機能でARに登場するそれぞれのモチーフとの記念撮影を実現。撮影した写真は住職から門徒へメールで送られ、コミュニケーションが生まれます。映像による意味を持たせること、接点を増やすことで住職や寺への関心のきっかけを作ります。
私たちが目指したことは日本古来の仏教をデジタルと単に掛け合わせることで即興的なネタとして伝えることではなく、現代のお寺の本質的な問題を捉え、最適な伝え方として仏教とARを掛け合わせた新しいツールとして「極楽浄土AR」を提唱します。